生きてゐる人間

英語リーディング・テキストの題材に何がふさわしいかというと、なかなか難しい問題で、いっときは入試も含めオバマ大統領のネタであふれかえったりしていましたが、O・ヘンリーみたいなトラッドな小説なんか載せると古臭いだの現代英語ではこんな言い回ししないだのケチがつきかねず、かといってモダンにすぎるものばかりだと若者におもねってるだの公教育は権威的であれだの説教を垂れる輩もいたりして……まあとはいいつつ、全体的な傾向としては、現代的な、タイムリーなテーマに寄せつつあるのは間違いないのでしょうが。

この近辺だとK学園の新高2生が採用しているProvisionⅡ(桐原書店)のLesson1が"Go Armstrong!"というものでして、このArmstrongはLouisとかNeilのトラッドな方ではなく、自転車のLanceさんの方だったからきわめてタイムリーなことになりまして。

「もうパパを擁護しなくていい」 元自転車王者の告白 (写真=ロイター) :日本経済新聞

無論、教科書作成時点ではこのようなことになるとは予想できなかったから仕方ないんでしょうが(といってもいろいろ良からぬ噂の絶えない人でもあったようですが……)、ふと、今年のセンター国語で多くの受験生を奈落に叩きこんだ小林秀雄の一節を思い出しました。

「生きてゐる人間なんて仕方のない代物だな。何を考へてゐるのやら、何を言ひだすのやら、仕出かすのやら、自分の事にせよ、他人事にせよ、解つた例ためしがあつたのか。鑑賞にも観察にも堪へない。其処に行くと死んでしまつた人間といふものは大したものだ。何故あゝはつきりとしつかりとしてくるんだらう。まさに人間の形をしてゐるよ。してみると、生きてゐる人間とは、人間になりつゝある一種の動物かな」(無常といふこと)

ただ、後日談として、Oprah Winfreyとの対談でも見てディスカッションしたりすると、癌を克服しツール・ド・フランス7連覇をはたした神話的な英雄譚以上の、より深い「生きてゐる人間」に対する洞察が得られたりするのかもしれません。